学生時代からの友人であるところのkur(木浦さんのID)が本を出したというので、本屋までひとっ走りして買ってきたのですが、これが良い本だったので感想を書いてみる。
普段、呼び捨てなんだけども、なんか文字で木浦木浦と書くのもどうも偉そうなのでさん付けで・・・・
木浦さんは未踏ソフトウェアでスーパークリエイターに認定されたエンジニアでもあり、某大手メーカーにつとめたあと、コペンハーゲンのデザインスクールCIIDに留学して、今デザインをする会社を起業している。
まずデザイン"リサーチ"とは何なのかという話
デザイン、という言葉はおそらく多くの人にとって親しみ深い単語でしょう。本の表紙をデザインする、Webページをデザインする、そうした見た目をデザインする世界は多くの人にイメージしやすいはず。
近年では、デザインの扱う領域がサービスや組織にまで広がっており、美しい見た目という観点から仕組みを作ることや設計といった観点にまで広がっている。
こうした中で"リサーチ"とは何を指すかというと、デザインをするために様々な調査を行い情報を整理しソリューションを洗い出し、現実のプロダクトに落とし込むための知見を見出す一連の活動を指している。
デザイン・リサーチの歴史からプロダクトや組織の話まで広く読める一冊
まず目次を見るだけで伝わってくる取り扱う話題の広さ。この本はデザイン・リサーチのHow-Toではなく、デザインの歴史や近年の動向から、デザインを活用するための組織のありかたまで幅広いトピックを扱っており、まさに"教科書"的である。これを一冊読めばデザイン・リサーチへと入門する足がかりとしてはおそらく十分。
幅広い観点が手に入るので、ブレストを行うときや今後製品開発をするうえでの議論の見え方が変わるのではないかなと感じます。
巻末のCase Studyが地味にいい
私自身は実のところワークショップに参加したり主催したりしたことが何回かあるので、基本中の基本はほんのり知っているのですが、やはり「他の人ってどうしているんだろう?」というのはやっぱり気になります笑
本書ではUbie株式会社と横河電機株式会社のケースが載っており、企業内でどういう位置づけで活動しているのかが記載されています。
デザイン・リサーチに限らない話だとは思いますが、データアナリティクスにチームやリサーチ部門がどうプロダクトに影響を与えるかというのは実は一大テーマだったりします。なんでかって、別にいなくても仕事は進むし、本当に意味があったのかというと実のところよくわからんのです。
結果的に、企業毎にその価値の発揮の仕方というのは変わってくるのですが、その実例が知れるというのはなかなかにありがたい。
感想: この辺はいろんな流派がある
ボク個人は前職でなんとなく親しみがあるIAMAS流の絵を書いてプロトタイピングをすることを中心としたやり方を状況に合わせて変更して使う・・・ということが多いです。木浦さんの本に書いてある方法も幹の部分や大本の発想は同じですが、枝葉の部分が異なるのでおそらく違う印象を受けるのではないかなと思います。
また、前々職でもディスカッション・ペーパーを用意して、持っているソリューションをどう当て込むかを顧客と一緒に考える・・・というようなプロセスを踏むことがよくありました。有り体に言うと営業なんですが、顧客の課題は顧客が一番良く知っているがゆえに一緒に「もし、この製品を活かすとしたらどんなところに入れられるか・・・?」を一緒に考えることで5千万円とか1億円の買い物をしてもらう気分になってもらうことが可能になるわけです。
どちらのケースに置いても、なにを所与とするかとか用いる道具の差はあれど、源流にある考え方は木浦さんの書いている本と同じなのかなというように感じます。
感想: リサーチは知見を出すのみならず、同じ認識を持ち合意を得るために重要
業務としての調査分析は当たり前に行うとして、節々に適切にステークホルダーを巻き込み状況によってはアイディア出しも一緒に行うことで、合意に至りやすくする・・・という効果があるように思います。
新しいことをするときに決済者が一番気にするのは「なんで?」です。儲かる・儲からないとかビジネスインパクトとかありますが、新しいがゆえに結局よくわからないし当たるかわからんものを予算にも組み込めない(費用は積むでしょうが・・・)ので、結果的に「なんで?」の納得感が判断軸になりがちです。
しかしながら、新しいが故に、何もかもがよくわからんのです。突然30分くらいでプレゼンされたところで、「うむ。良さそうな気がするなぁ」くらいの感想しか生まれません。ここで、Goが出せる決済者というのはかなりの経験値がある一握りの人に限られますし、そうじゃなければ単なる博打打ちです。
しかし、ここで唯一「経験値」を積む方法があります。それが、一緒にリサーチをすることなのです。
もちろん全行程に巻き込むことは現実的ではないわけですが、例えばプロトタイプを触ってもらう、ユーザの課題を都度共有する、決済者のわからないポイントを明らかにしてリサーチを深める、一緒にアイディア出しをする、etc...こうした一連のプロセスを通すことで決済者の中での経験値を積み上げ、判断をしやすくする。こういう効果があるように思います。
デザイン・リサーチの基礎がわかる一冊
ハウツーを得たいだけならおそらく違う本を読むほうが良いかもしれません。しかし、デザイン・リサーチ全体から考えるとハウツーは一つの具体例にしか過ぎません。特定の状況・特定のケースにしか当てはまらないことでしょう。
一方で、本書を通して「基礎」を身につけることができれば、このノウハウを活用して読者自身の状況にあわせたリサーチのスタイルを確立する足がかりになる・・・かもしれません。