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俺たちは雰囲気で希少性と所有権を語っている。NFT界隈のすれ違い。

NFT界隈っていろんな議論が行われていてよくわからないと感じませんか。僕はよく感じています。たまにははらじゅんの長文が読んでみたいと言われたのもあり、つらつらと思うところを書きつつ、会話が成り立っていないポイントの指摘とNFTなどに対する私の所感を表明してみたいと思います。

目次

NFT界隈の噛み合わない希少性や所有権の考え方

NFTやメタバースの定義や効用とされているものは多岐にわたっている。先日バズったkumagiさんの記事に例として上がっていたものをピックアップしただけでもそれなりに色々書かれている。

  • 希少性を担保する
  • 所有権を現す
  • バーチャル空間の所有権を管理できる
  • 非中央集権的である

記事の趣旨としては「NFTにはこういった効用はない」「あったとしても意味がない」ということなのだが、私個人としても全てではないが概ねkumagiさんの言うことに同意する。

こうした論点についてはDaisuke Sasakiさんの記事でも触れられており、kumagiさんのいう「電子の世界はノーコストでコピーが可能なのが利点なのにそれをわざわざ殺して不便にした世界でないと出せない価値はない」という点について、「私の考えではノーコストでコピーが可能という議論の土台にそもそも穴がある。」として論を展開している。データを配信するインフラコスト、コンテンツを売るためのマーケティングコストなど多くのコストが発生しているがそれを無視することはできないからだ。

両者の言っていることは正しい。しかし、まったくもって噛み合ってない。

kumagiさんのいう「ノーコストでコピーが可能」は文字通りデータのコピーをするという話である。詳細は読んでいただければわかるが、kumagiさんが取り上げた文脈ははモノが簡単にコピーできるバーチャル空間にNFTでコピーを制限する機能を入れる利点がないという指摘なので、ここでいうコピーは純然たる複製としてのコピーである。指摘には賛否があると思うが、コピーの意味するところには議論がない。

一方で、Daisukeさんのいうコストはデジタルデータを顧客のもとに届けて価値を生み出すまでの一連のバリューチェーン全体にかかるコストである。大手プラットフォームが負担しているコンテンツ流通にかかるすべてのコストのことを指しており、単なる作業としてのコピーを指していない。土台からして議論している内容がkumagiさんとは異なるのである。

私の観測範囲ではこうした同じ言葉を使って全く違う議論を展開する所業がNFT界隈のみならず、IT業界全体で行われているのが実情であるように感じられる。識字率大丈夫かな。

NFTの希少性はNFT自体の希少性である

NFTの希少性が指す意味はNFTそのものの希少性である。今の所それ以上でもそれ以下でもない。それはトークンとしてのNFTとデジタルコンテンツを1対1で対応することができないからである。kumagiさんを始め多くのひとが指摘するようにNFTそのものにコピーを防ぐ能力はない。そのためデジタルコンテンツそのものの希少性を担保することができない。

Daisukeさんはマジック・ザ・ギャザリングを例に希少性と価値について論じているが、この話はNFTとは全く無関係である。カードゲームはメーカーが流通量を調整することによってカードそのものの希少性を担保できる。しかし、先に述べたとおりNFTにはコピーを防ぐことが現状できず流通量を調整することができない。したがって、カードゲームの希少性とNFTは全く無関係である。

では、NFTの担保する希少性とは何なのか。kumagiさんはそれを信仰と同等であると評価する。これはなかなか言い得て妙である。

希少or有限な物にお金を払うモチベーションがあるとするならばそれは実需を除くとそういう信仰があるからに他ならない。伏見稲荷大社に21万円払えば5号の鳥居が奉納できるがやってる事はそれと変わらない。伏見稲荷大社に置ける鳥居の数は当然有限だが、有限であることだけを理由に奉納する人はいない。奉納はやりたければ誰でもやれば良いが「癌が治る」とか「高く売れる」とかのトークで人に奉納を迫っていたら詐欺である。

信仰はちょっと極端な例ではあると感じるが、私自身も神社に寄付して名前を載せてたりするのでとても理解できるところではあった。

もう少し現実的な例としては、初版本やシリアルナンバー入りのリトグラフ(版画)などが考えられる。多少のコンテンツの差はあれど、実質的に得られる効用が全く同じであるにも関わらず初版であることやシリアルナンバーが若いことによって金銭的価値が上がる。この現象については私は詳しくは知らないが、自分がどれだけそれを愛しているかを表現するという意味でファンにとっては価値があるということは想像できる。NFTはこのようにモノの主要な効用とは全く無関係に「希少なものをもつことそのものに価値がある」ケースが一つの利用例として想像できる。

これは、NFTを持つという行為そのものになんらかのコミットメントの表明があったり、持っていることそのものが名誉になっていたり、そうしたケースにはとても良くハマるように思われる。私がぱっと思いつく限りでこれを電子的に実現する方法はなかなかない。

NFTで所有や希少性を管理したバーチャル世界は効率的か

kumagiさんが指摘しているようにNFTで所有権を管理する世界をバーチャルに作ることは可能である。バーチャル空間はすべてプログラムで誰かが作っているのだから、NFTによって所有権や流通量を制限する世界を作ることももちろん可能である。しかし、これは効率的なのだろうか?

今の所、ブロックチェーンそのものに多人数が同時に参加するバーチャル空間を支えるだけの機能はない。もちろん、これは「いまのところ」「現在原田の知りうる範囲」に限った話であるが、原理的にそうそうそんな世界は来そうに無いように思われる。いずれにしても、想像の技術をベースに話をされても僕は困るので、今現在知りうる限りの話を書く。

現在のNFT基盤をベースに考えたとき、いずれにしてもバーチャル空間はどこかのプラットフォーム上に構築されているのである。であれば、どうしてプラットフォーム上で所有権や流通量をコントロールせずにブロックチェーン上に載せる必要があるのだろうか。バーチャル空間の本質がプラットフォームにある以上、非中央集権でもなんでもないので所有権だけNFTに逃がす意味はそれほどない。

では、NFTで管理することは効率的なのだろうか?ここには多少の議論がある。まず、NFTの基盤として何を選択するかでも色々と変わる。ブロックチェーンと一言に言っても様々だし、独自に実装することもできる。無いものを議論することは難しいので一旦いわゆるCPUをぶん回すタイプのPoWをベースに考えると、平均的にはプラットフォーム管理のほうがはるかに効率的だろう。残念ながら証拠はないが、CPUぶん回さなくても台帳管理できるわけでPoWのほうが効率的という結論を導き出すのはなかなか困難ではあるだろう。

ただ、ビットコインのエネルギーについては遊離電力を活用することが可能であるとする論もあり、地球規模で考えたときにトータルで効率的であるという考え方はある。一般的に電気は貯めておくことができない。水力発電や火力発電で生まれた電気は、揚水発電などの一部の努力はあるものの、基本的には捨てることになる。この電力でブロックチェーンを維持すればエコだろうという考え方である。

これには一定程度の説得力はある。少なくとも机上計算では辻褄が合うようである。しかし、実現性についてはまだ不明である。

総論としては、いまだNFTのほうが効率的であるとする実効的なアイディアはないと思われる。可能性は否定しない。

どんどん概念化するNFT

NFTの話ししていると、最後は「将来的にはブロックチェーンではなくなっても良い」「技術革新で可能になる」とか言われるので、正直なんのはなししてんのかわからなくなってつらい。

あ、これは愚痴です。

NFTは道具だけど、使い方が謎。みんな妄想でしゃべってる。

Daisukeさんも下記のように述べている。これはそのとおりだろう。

NFTは、いうなれば「紙」とか「Web」みたいなものである。紙にはいたずら書きもできるし、記事を印刷して各戸に配布する新聞という事業にすることもできる。Webで静的なホームページを作ることもできるし、Facebookのような個人情報収集機械として巨大な広告ビジネスを展開することもできる。紙もWebもいまではその特性がよく理解されているので、用途に応じてうまく使い分けられている。NFTも紙やWebと同様に何でも盛れる器なのだが、その用途が定まってなくて空想だけが大きくなっていってる。

つまるところ、NFTはブロックチェーンというちょっと面白い道具の実験的な試みのひとつなのである。ブロックチェーンのインセンティブ構造はよくできている。実際に機能もしている。これを使うと色んな「台帳」の類が管理できそうに思えることは自然だと思われる。

一方で、今日論じたとおり議論がすれ違っていたり無関係であることも多い。私の書いた話も網羅的に論点を扱っているわけではない。特に、NFTによる所有権の法的位置付けをまとめて見てもよいのかなと思うものの、ここまで書くのに1時間くらいかかっているのでニワカにはやりづらいなと思っているところではある。

今日は一旦「なんでNFT界隈って議論がすれ違っているのか」「単語だけ拾って別の意味で話しているよねそれ」っていうのをちょっと言ってみたところに止めようかと思います。

補足

まず大前提として、僕自身はあらゆるNFTやブロックチェーン事業に関わっておらず、あくまで一個人の研究テーマとして調べているという立場であることを明らかにしておこうかなと思います。特に、特定の立場の肩を持ったり下げたりするものではありません。フラットな感想です。