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世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事

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 健康のため最近筋トレをし始めたので食事を見直そうとしたところ、なかなか食事に関するいい情報が見つからないと思ってたところツイッターで発見。

著者の津川友介氏は、UCLAで助教授をする医師で、ハーバード大学で修士・博士を取得してきます。

twitter.com

食事の情報というと怪しいものが多く、信頼できる情報源を当たってみると情報が細かすぎて扱いにくいです。「科学的に証明」「シンプル」という書名にひかれて早速購入してみました。

世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事

世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事

 

大前提として「成分」は重要ではない

例として「リコピン」「ベータカロチン」の話が出てくる。緑黄色野菜を多くとることは健康の一助になることが知られているが、では共通の成分として取り上げられる「ベータカロチン」はどうなのか。本書によると「ベータカロチン」単体の摂取はかえって死亡率を挙げるという研究を紹介しています。

リコピンについても同様です。トマトを食べることは健康にはいいが、「リコピン」単体での接種の健康への影響は証明されていないようです。

このように、成分単体での健康への影響は多くの場合それほど根拠がありません。

ポイントは、①魚②野菜と果物③茶色い炭水化物④オリーブオイル⑤ナッツ

本書の言いたいことは27ページ目に挙げられている「信頼できる研究からよいと現在考えられている」5品目でほぼすべてといっても過言ではありません。そのほかは、割とオマケといえるかもしれません。

それぞれ、どの程度を摂取するとどの程度の健康影響があるのかは実際に書籍を読んでいただくと詳細に記載されています。

これらの食品を適度に取り入れていくという点だけ抑えれば、その他はあまり重要ではないかもしれません。

体に悪い食品は、白い炭水化物、赤肉、加工肉、ジュース

意外だったのは、「100%ジュース」でも健康に悪いという点。一見、フルーツそのものや野菜そのものとジュースには差がないようにも思われますが、研究によると血糖値の上昇に差があり、糖尿病リスクにも大きな差があるようです。ジュースにする過程で捨ててしまう部分に鍵があるのでしょうが、明確な要因についてはあまりわかっていません。

感想①:健康に良いだけの食品はごく少数であるのでリスクと付き合っていくことが重要

本書を読んでわかる重要な事実は、「健康に良いことしかないことがわかっている食品」というのは極めて少数であり、現代的な食事は「健康に悪い」ことになるか、ほとんど大部分については「検証されていない」に分類されてしまうということです。

つまるところ、本書のタイトル「究極の食事」はほとんどの場合なしうることはないでしょう。これは、現代人の多様な食文化・食材のすべてをありとあらゆる角度から検証することの不可能性を示唆しているようにも思います。

重要なのは、「科学的にわかっていることとわかっていないこと」を正確に見分けるリテラシーと、「リスクへの理解と付き合い方」なのだなと感じます。

感想②:記載されていることのほとんどの部分のエビデンスは弱いように思う

本書の良いところは、エビデンスの強さについて慎重に書かれているところです。しかしその分、「結局のところほとんどのことは確実ではないんだな」ということを実感することになるかと思います。

また、本書の構成の「健康」の観点が散漫なことや、エビデンスの強弱や筆者の感想がまんべんなく混ざってくることにより、理解がなかなか難しいです。結局のところ「科学的に証明された」といえそうな部分は冒頭の5つの事項に集約されます。

もし今後改版されることがあれば、健康の観点の整理とエビデンスの強弱・感想の部分を分けて整理されると非常にわかりやすくなるように思います。例えば、健康の観点を「死亡要因の上位」「余命への影響」「生活習慣病」に絞るであるとか、エビデンスの強弱についての記載を整理してのせるなどするだけで、文献としての価値がグッと上がるように感じます。

現状の文体だと、どうも「どこまでの範囲を調査しているのか」「何が確実で何が不確実で、どこからが著者の私見なのか」を読み分けることがなかなか難しく、これはこれでミスリーディングなことが起きそうに思います。

感想③:筆者の意見がちょっと政治的に偏っているように読めてしまう

筆者は書中で「メディアはセンセーショナルな事項しか扱わない」「政府のガイドラインも業界団体からの圧力で歪んでいる」という主張を繰り返します。そういった一面ももちろんあるでしょうが、一方で欧米のガイドラインを引用したり、英語での検索を推奨するなど、態度が一貫していない部分が散見されます。

学会に出ている論文であっても追試が十分でないような研究はあまり価値がありません。メタアナリシスではそういった研究は落とされるでしょうが、ランダム化比較試験であろうと何であろうと十分な追試がなかったり、作用機序があいまいな研究は、基本的に信用に足るものではありません(作用機序が曖昧であっても、十分な追試によって信用が上がっていく)。

著者は、十分な研究経験を積んできているのですから、こうした部分を整理して記載することは可能であったはずなだけに残念です。

もちろん、「食」のすべてをサーベイしきることは非常に困難でしょうから難しいとは思いますが、だからこそ程よい切り口でのまとめ方を読者としては求めてしまうところです。

総論: 食事だけでなく、ほどよい運動など「生活習慣全体」での最適化が必要

結局のところ、本書から私が読み取った結論は「究極の食事」なんてないということでした。食べるモノのメリットとデメリットを知り、そのうえで運動や睡眠といった「生活習慣」全体で最適化せざるを得ないということなのでしょう。

どうやら、健康に「銀の弾丸」はないというのが現代科学の限界であるようです。