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読書: Learn or Dir 死ぬ気で学べ。プリファードネットワークスの挑戦

個人的な感覚値だと、テックドリブンでもない、けど、サービス志向でもない、そんなバランス感覚の不思議なベンチャーPFNの創業きっかけから今に至るまでの話がまとめられている本です。ユニコーンと言われてますね。

何かと知人がチラホラいるのでなんとなく親近感があります。最近は、協働ロボットやパーソナルロボットなんかにも力を入れています。

高い技術力があるけど、テックドリブンというわけではない(気がする

ここでいうテックドリブンというのは、特定技術をベースにしたベンチャーのことです。例えば、ユーグレナのミドリムシとか、エレファンテックのP-Flex技術とか、特定技術一本足打法な会社のことです。もちろん、それぞれ競合や既存技術は多少あれど、それなりに際立った独自技術を売っています。いろんな会社がテックカンパニーを標榜していますが、実際のところ技術をお金に換えている会社はそれほど多くないというのが実情かと思います、

そんな中、PFNはちょっと不思議な立ち位置かなーという印象です。まず、DNNに強みがあることは間違いないですが、程度の差こそあれDNN自体は割と幅広く世界中で使われている技術です。何年か前に上場したPKSHAなんかもDNNというか機械学習を売りにした受託会社です。

そんな中、PFNは間違いなくDNNや機械学習分野のリーディングカンパニーのひとつで、海外の学術系トップカンファレンスにも論文を通すなど研究力も高く、かつ、パーソナルロボットのデモ展示など開発力もかなり高い企業です。多くの協業や事業提携を通して創薬・自動運転など幅広い応用領域に手を広げており、さながら私立の研究所のようです。

MN-Coreなどの独自技術開発も行っています。

特定技術を軸にサービス展開をしているわけでもない、けど間違いなくトップの機械学習関連の技術力を持っている。そんな感じの企業です。

ベンチャーがどのように成長していくかが読める

作った検索エンジンSedueがなかなか売れない、売り方もわからない。ひたすら頑張って、いろんな人にコンタクトを取りまくるところから始める。とてもベンチャーっぽいですね。こういう生々しい様子が描かれています。

事実ベースでは知っている内容ではあったんですが、改めて西川さん岡之原さんが何を考えていたのか、何を大事にしていたのか、そういった点が読めたのがすごく興味深かったです。

ベンチャーは面白いことしてなんぼだよね

もっと中長期的に成し遂げたいことをちゃんと作ろう。それを発信していかないと面白くない。結果的に誰もついてこなくなる。そう思い始めた。

-- 西川徹、岡之原大輔、Learn or Die

西川さんがこれまでの機械学習や検索の知見を捨てて、DNNに方針転換する決心をした時の気持ちをつづった一節です。

僕もベンチャーの取締役を数年やってたことがあったんですが、辞めようと思ったきっかけは「別に受託したかったわけじゃないなw」「お金は好きだけど、中途半端な金儲けしたいわけではないなw」っていうところでした。当時、色々辞めたい理由がたくさんあったんでアレですが、今になって思うに何が最終的に嫌だったかというと面白くないなって話なんすよね。これは、音楽性の違いってやつかなぁ。

極論、PFNみたいに優秀な人たちであれば一般企業に入って多少の理不尽に耐えれば、それなりの収入とそれなりにやりがいのある仕事がゲットできるんですよね。やはり、ベンチャーやるなら成し遂げたいこと・面白いことにフォーカスしないとやりがいがないですよね。

PFNは、中長期的に成し遂げたいことにフォーカスするためにいろんなことをします。

  • 自由を手に入れるために外部資本を受け入れる
  • ずば抜けた技術力
  • 時間だけとられるビジネスはしない
  • 失敗を推奨できる資金集めが重要

特に資金調達は特徴的で、あまり機関投資家からは入れておらず、事業会社からの出資やJVが主なようです。いわゆるスタートアップに期待されるような短期間での成長からのエグジットという投資家ストーリーに合わないからですね。

また、PFNは世間のイメージとちがってクライアントワークをかなりしています。知財の持ち分が気になるところではありますが、請負のように100%の権利譲渡ではなくて、なんらかコアテクノロジーがPFNに残るような契約にしているものとみえます。

さらに、失敗を許容できる文化・財務構築に力を入れており、高い技術力を持ったエンジニアを抱えて高いパフォーマンスを発揮できる環境づくりに注力しています。Googleのような収益事業がある場合以外で、こうした例は珍しいのではないでしょうか。事業会社からの出資でリスクを取って技術開発をするというのは、よいモデルケースなのではないかと思います。

組織もすべては技術開発のために

オフィスや面接・評価の仕方まですべてが技術開発のために全振りされています。

一度オフィス内の装飾を始めると、ちょっとしたことでも100万、200万円とこすとがかさむ。200万円あればGPUボードが1枚買える。壁の植物とGPUのどちらがほしいか?PFNの社員は皆絶対にGPUだと言うだろう。

言い切りましたね!笑。すべてを全振りする。リーダーシップ論風に言うと一貫性があった方が人がついてくるというのがあるんですが、まさにそんな感じですね。

PFNのオフィス見学行きましたが、言ってるほど殺風景でもないのではーとは思います。大手町ビルがそもそもちょっと古いのでアレですが、一般オフィスの執務室を考えればあんなものかなって気がします。いい意味で質実剛健。

PFNはその分野のエキスパートばかりが集まった会社だ。(中略)課題があって、そこに何か技術的な壁があるのだとしたら、その壁を取っ払うところに次の技術開発のチャンスがある。その「取っ払うべき壁」を見出すためにも、社内の評価レポートの細部まで目を通すのはとても重要なことだ。

分野のエキスパートが集まっていれば、人事評価のレポートですら開発のヒントになるだろう。こういう発想のようです。さすがにその発想はなかったな・・・と思いましたが、確かにワークしてない人がワークするようになるには、そうした情報源として人事評価は重要な情報源になり得るように思いました。また、組織として中間管理職や周辺の人が正しく状況と要因分析をでき、それをレポートにしたためることができるというのは結構高度な技術がいる一方で重要だなと感じるところです。

ついでに、最近の深層学習の流れが易しく理解できる

技術的な話はないですが、最近の深層学習のトレンドについて一般人向けに非常にハイレベルに良いまとめがされています。第5章の岡之原さんのパートを読んでおけば、だいたい知ったかぶりできるのではないでしょうか。

そしてパーソナルロボットの世界へ

PFNがCEATECで発表したお片付けロボットを皮切りに、さまざまなパーソナルロボットの世界へチャレンジしていくようです。まだ秘密なのか、まだ定まってないのか、具体的なことは書かれていませんが、PC・スマホの次に来る新たな可能性としてパーソナルロボットは十分チャンスがある領域だとは思います。

まとめ

PFNの創業から今に至るまでの西川さん、岡之原さんの考えや思いが読める貴重な本でした。PFNはまだまだ話題のベンチャーだと思いますし、その内実がわかるという意味で、AI業界に興味がある人や起業に興味があるひとには面白い本なのではないかなと思います。